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エンジン2024年2月1日

ウォーターハンマーとオイルハンマー

エンジンで起こるトラブルのなかに、「ウォーターハンマー」と「オイルハンマー」という

現象があります。

 

「ウォーター」と「オイル」は、それぞれエンジン内部にある冷却用のクーラントと潤滑用の

エンジンオイルのことですが、では「ハンマー」とは何なのか、

ということをまず説明させていただきます。

これは、明現社から1977年に出版された、「自動車工学講座-内燃機関(構造編)」から

引用させていただいた、エンジン内のピストンの作動の模式図です。

 

ピストンが上死点と下死点を上下する運動がクランクシャフトに伝達されて、

回転運動に変換されている様子を簡単に説明しています。

 

ピストンが上死点まで来た時、ピストン上部の空間は大きく狭くなっており、

これによって空気が圧縮されているわけですが、この狭い空間に水やオイルなどの、

圧縮することが難しい異物が入っていた場合、どうなるでしょうか。

ピストンが上死点まで上がりきれず、その負担はおもにクランクシャフトとピストンを

つなぐコネクチングロッド(コンロッド)にかかってきます。

この負荷によってコンロッドが曲がったり、さらにはピストンやクランク、シリンダーなどに

破損が生じてしまうことを、上下するピストンをハンマーで叩く時の動きになぞらえて

「ハンマー」と呼んでいます。

こちらが破損してしまったコンロッドです。左側は正規の状態ですが、右側のコンロッドは

ねじれてしまっています。

 

なお、このようになってしまったコンロッドは基本的に修正できませんので、交換となります。

 

では、なぜこのような現象が起きてしまうのか、という話です。

まずはクーラントが入ってしまうウォーターハンマーについて。

シリンダーヘッドの亀裂、シリンダーに穴が開いている、水没して吸気のマニホールド側から

水が入ってしまった、などの様々な可能性がありますが、ディーゼルエンジンの場合、

燃料の噴射ノズルを冷却するために装着されているノズルチューブからの水漏れ、

という場合もあります。

この写真は日野のJ08Eというエンジンのシリンダーヘッドを水圧試験しているときの様子ですが、

中央のノズルチューブの所から水が漏れてきているのがわかります。

 

この程度の少量であれば、他のトラブルは発生するものの、ウォーターハンマーまで起きることは

あまりありませんが、大量の水漏れが発生していたり、長時間エンジンが停止していてピストンの

上に水が溜まってしまっている場合などには危険性があります。

続いてオイルハンマーです。

写真はオイルハンマーを起こしていたエンジンのシリンダーヘッドを外した時の様子ですが、

本来乾いているはずのピストン上部に、真っ黒なエンジンオイルが溜まってしまっているのが

わかるかと思います。

 

ちなみにこのエンジンは、機械ごとひっくり返ってしまうという事故のあったものでした。

 

本来はエンジンの下のオイルパンに溜まっているはずのエンジンオイルが、

さかさまにひっくり返ったことによってピストンの上まで流れ込んでしまった、という事例でした。

 

他にも、シリンダーヘッド側のトラブルによってエンジンオイルが流れ込んでしまったり、

燃料の噴射ノズルの破損によって燃え切らないほどの多量の燃料が流れ込んでしまった、

という場合もあります。

 

ウォーターハンマーやオイルハンマーは、エンジンのトラブルとしては比較的重大なもので、

エンジンをバラバラに分解した上で問題点を割り出し、点検や修理、部品交換を行う必要があります。

また、エンジンの状態や部品の有無などによっては修理が不可能な場合もあります。

名前だけ聞くとどこか愉快にも聞こえる現象ですが、こんなことも起きるんだ、

という参考にしていただければ幸いです。